Research

我々のグループでは、「湾曲構造」、「π共役系分子」、「カルコゲン元素」といったキーワードを基に、炭化水素骨格に酸素硫黄原子を組み込んだ新規なπ共役系分子を創造・設計し、有機合成技術を駆使して独特かつ美しい分子骨格の構築に挑戦しています。そして、分子構造を明らかにした上で、酸化還元特性や発光特性などの分子特有の物性を調査し、分子構造と物性との相関を解明し、分子性材料の開発を行っていきます。


分子反転挙動に着目した凝集誘起発光色素(AIEgens)の開発

ピレンのような一般的なπ共役系色素は平面な構造をとる場合が多く、希釈溶液中では高効率な発光を示しますが、高濃度条件になると分子骨格に由来して分子間の重なりが強くなり、強固な相互作用によって積層してしまい、濃度消光を引き起こします。一方で、ヘキサフェニルシロールのような立体的にかさ高い化合物は、希釈溶液中ではフェニル基の自由回転に起因した熱失活によってほとんど発光しませんが、高濃度条件下において分子が集合すると、フェニル基の回転が抑制され、発光強度が上昇することが知られています。この現象を「凝集誘起発光(AIE)」と呼び、このような性質を示す化合物群を「凝集誘起発光色素(AIEgens)」と呼びます。濃度消光とは異なる発光メカニズムを示すこれらの分子は光化学・材料科学の観点から大変注目を集めています。しかしながら、従来のAIEgensは分子内の「回転運動」を抑制する設計の基に合成された系が多く、分子運動抑制によるAIEへの適用範囲が定まっていないのも事実です。そこで我々のグループでは「分子反転」挙動を示すπ共役系有機色素に着目し、反転挙動を抑制することで、凝集状態で効率的な発光を示す分子の開発を行っています。

Related Grants: 21K14615 (KAKEN), 22K05025 (KAKEN)


含硫黄湾曲型分子ユニットを組み込んだ多角形大環状分子の開発

大環状分子は放射状の美しい分子構造をとるため、我々の興味を強く惹きつけます。加えて、分子内の環サイズに依存した空間を有することから、異なる有機分子を取り込むことで分子吸着に基づいた性質を新たに引き出すことが可能になります。さらに環状構造に則してカラム状に分子を並べることができ、緻密な分子集合体を形成させることができるため、固体状態における物性を評価しやすい特徴を有しています。環状骨格を形成すること自体が合成的難易度を高くしており、得られる化合物の収率は低いことが通常ですが、それに見合うだけの魅力・特性を兼ね備えていることが期待できます。我々のグループでは、ベンゼンなどの一般的に平面な芳香族π共役系分子ではなく、1,4-ジチインやチアントレン、テトラチアペンタセンといった、硫黄原子を組み込んだ湾曲型ポリチアアセン類を構成単位とした多角形大環状分子の開発を行っています。円筒状の大環状分子とは異なり、多角形構造を採用することで、数学的な「平面充填」に基づいた分子配列の制御"Molecular tiling"に期待できます。構成単位の光物理・電気化学的性質が環状骨格を形成することにより、単分子系および集合状態においてどのような影響を与えるのか調査を行っています。

Related Grants: 22K05070 (KAKEN), 24K08400 (KAKEN)


外部刺激応答型発光色素の開発

湾曲構造を有する有機発光色素類は通常、光を吸収して励起状態へ遷移すると、湾曲構造から平面構造へと構造変化を引き起こします。この過程は分子運動によってエネルギーを消費するため、励起状態(S1)から基底状態(S0)への減衰過程(S1→S0)において、蓄えたエネルギーを熱を伴って放出する「無輻射失活」が支配的となることから、高い発光効率を目指した有機色素の開発には不利になります。しかし一方で、機械的な圧力pH刺激などの外部刺激や、凝集や結晶環境などの骨格固定化による外場環境を整えることで構造変化を制御することができれば、これらは発光のオン・オフもしくは発光効率を飛躍的に上昇させることのできる「スイッチング発光色素」として展開できます。我々のグループでは、クマリンやチアントレンにπ共役拡張などの化学修飾を施し、pH刺激や機械刺激に応答する共役系発光材料の開発を行っています。

Related Grants: 21K14615 (KAKEN)

Selected Papers: BCSJ (2022), Chem. Commun. (2026)


チアントレン骨格を用いた高効率有機室温燐光材料の開発

チアントレンは、溶液状態ではS1およびS0間で生じる構造変化により非常に低い蛍光発光効率(~2%)を示しますが、単結晶や薄膜内で分子骨格が固定されると、室温でリン光発光を示し、その発光効率は飛躍的に上昇します(~25%)。これは分子骨格が結晶環境内で固定されることで、一重項励起状態(S1)から三重項励起状態(T1)への効率的な項間交差がスピン軌道カップリング(SOC)を経由して誘起されるからだと考えられています。通常、リン光発光は待機中の酸素と反応しやすく、極低温(液体窒素温度)でしか観測されないため、特定の環境でしか応用できない性質でしたが、室温でのリン光発光が可能となることによって、適用範囲をさらに拡張できるようになります。室温リン光を示す化合物は遷移金属錯体を主とする錯体が多く、希少性・環境負荷などが問題に挙げられます。一方、有機化合物による室温リン光材料の開発は、資源性・環境低負荷・分子設計自由度の観点から、材料化に大きく貢献できることが期待されます。しかしながら、その発光機構は未だ不明な点が多く、分子設計指針が確立されているとは言い難い状況です。我々のグループでは、チアントレンを基盤とした誘導体を合成し、効率的な室温リン光発光を示す材料の開発を行っています。

Related Grants: 24K08400 (KAKEN)

Selected Papers: In preparation